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「C.C.、スピードが遅くないか?」 ふと気になり、前の座席で操縦をしている共犯者に声をかけた。 「いいじゃないか、急ぐ旅でもなし。ラクシャータのステルス機能は万全だから見つかる心配もない。のんびり安全運転で向かうのもいいだろう?」 ガウェインの後部座席に座り、何やら本を読んでいたルルーシュが文句をいうので、私はそう答えた。それもそうかとルルーシュは再び本に視線を向けた。ルルーシュがコードを受け継ぐことは、V.V.を囚えた時既に決定していた。それを知らされていた科学者達は、せめてその体から傷を全て消させて欲しい。永遠のに生きるというなら尚更だと、必死になってルルーシュの傷を消し続けた。 足のリハビリは、私と二人で2年間行なった甲斐があり、軽く走れるまで回復したが、おそらくはこれが限界だろうと判断し、科学者たちの願い通り全ての傷を消したその日、ルルーシュはコードを継承した。 一度命を失う為、新たな傷が体に残ったが、彼女たちはそのことを知らない。 自分に仕えた全員を本来あるべき場所へ返したルルーシュは、これから遺跡の奥、思考エレベーターの中に籠もり、コードとギアス解析のための研究に専念するそうだ。 二度とギアスを世に出さないため、共に来るよう言われたので私は了承した。 不死者である自分たちは人と関わるべきではないと、ルルーシュは言った。 だが、この男の周りはそれを許さないだろう。 反対されることが解っていたからこそ、科学者以外には・・・スザクにさえこの事を告げなかった。ユーフェミアがいるのだから、自分はもうお払い箱だと笑っていたが、考えが甘いとしか言えなかった。あの壊れた騎士は、主なら誰でもいい訳ではない。ナナリーは強い子だから、自分がいなくても大丈夫と言った時には、お前、ふざけているのか?頭大丈夫か?と言いたくなったほどだ。あの二人が誰と共に生きたいと願っているのか、気づいていないのはルルーシュだけだ。 周りの人間が、どれだけ執着しているか本気で解っていない。 この男は自分を過小評価しているから、気づかないだろうが、私はこの後の展開をある程度予想していた。だからこそ、こうしてのんびり飛行しているのだ。 大体だ。 遺跡の中に籠もったら、あの店の新製品を食べそこねてしまうじゃないか。 せっかく絶品ピザがある時代にいるのに、隠居なんてもったいないにも程がある。 あの時代では一人で食べ歩いていたが、この男が傍で五月蝿く騒ぐのをBGMに食べるピザは最高なのだ。 その顔も鑑賞に値するし、何よりこの男からは深い愛情を感じられる。 だから余計に美味しいのだ。 まさに魔王と呼ばれるに相応しいほど頭のいい男。 本当にコードを無効化出来るかもしれない。 死が二人を分かつまで共にいると誓ってくれた。 それは結婚の誓いだろう?と思ったが、それを口にしたら「そんな意味ではない」と、恥ずかしがって距離を置くだろうから、心の中に仕舞うことにした。 共に生きてくれるものがいる。 その相手は、無償の愛情を惜しげも無く注いでくれる。 私の本当の願いは愛されること。 だから今は死を望む気持ちが薄らいでいる。 ならば、私がピザに飽きるまで、この世界で生きてもいいじゃないか。 だから私はのんびりと、目的地へ向かう。 この男の騎士達が迎えに来るのを待ちながら。 白と赤の騎士に連れ戻されたルルーシュは、アリエスに幽閉状態となった。 外界からの情報を遮断されたその場所で、彼を主と慕う者達に囲まれて暮らすよう命じられ、共犯者は毎日ピザが出る生活に歓喜し、騎士たちは護衛という名目の監視を行い続けた。ルルーシュは「悪逆皇帝を野に放すのは、やはり怖いか」と判断し、その環境を享受していた。 「どうせ終わりのない人生だ。少しの間付きあおう」 そう言ったルルーシュに、甘いな、とC.C.は心のなかで呟いた。 そんなある日。 「そうだ、言い忘れていたよルルーシュ。昨日、私は帝位を退いた。お前が今日からこの国の皇帝だからね」 朝食の席で、99代皇帝クロヴィス・ラ・ブリタニアは、異母弟の手料理に舌鼓を打ちながらそう口にした。帝位についてから5年。顔立ちも、政策も、随分としっかりしてきたと思ったのに、こんな冗談を言うなんてと、ルルーシュは思わず眉を顰めた。 「頑張ってくださいねお兄様、私もお手伝いいたします」 にこやかに笑いながら、パンを口にしたのは最愛の妹ナナリー。 「我々も勿論お前に協力する。いい皇帝となれ」 スープをすくいながら、異母姉コーネリアはそう告げた。 今日は4月1日だったか?いや違う。 では何だ?俺にこんな冗談を言ってどうするんだ? 困惑する俺に、すっと差し出されたのは今日の新聞。 目に入ったその内容に、俺は思わず思考を止めた。 そう、冗談でも何でもない。 100代皇帝として、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが帝位についたのだ。 「ま、待ってください!俺は不老不死なんです、皇帝など無理だ!大体、あの時代で悪逆皇帝だったんですよ!記憶を持ったものが数多くいることは知っているでしょう!せっかく平和となったのに、争いの種を撒いてどうするんですか!!」 まさに寝耳に水の話に、ルルーシュは思わず怒鳴ったが、三人は笑みを崩さなかった。少し離れたテーブルで、ユーフェミアと二人きりで食事をしているスザクが、先程からこちらをチラチラと見て気にしていたのは、もしかしてこれのせいかとスザクを睨みつけると、慌てて目を逸らされた。 くそ、何なんだこれは。 「もしかして、私に情報を一切見せなかったのは、このためですか」 携帯も、電話も、パソコンも、テレビやラジオでさえルルーシュは使用を禁止された。それらの機材があればルルーシュなら何をするかわからないという理由だったが、新聞も禁止されたのは、情報全て遮断し、秘密裏に彼らが何かをしていたということだ。 「こうでもしなければ、お前は逃げてしまうだろう?悪逆皇帝のことなら問題はない。先月とある映画を世に出したのだが、それが思いのほか大盛況でな。続編の制作もすでに決定し来年には書籍化され、ドラマにもなるそうだ」 「・・・話が見えないのですが」 「名前をそのまま使えなかったが、記憶を持つ者にはその意味が伝わったようだ」 「・・・?」 名前? 記憶? 意味? ・・・まさか。 「お兄さま。こちらがその映画です」 ナナリーがニッコリと可憐な笑顔とともに差し出したのは1冊の本だった。その映画の詳細な設定などが書かれた設定資料集で、既に4000万部突破したんですよ。とにこやかに言われた。嫌な予感に冷や汗が止まらない。パラパラとめくり内容を確認すればするほど血の気が引いていき、手を止めたそのページを思わず握りつぶした。 「スザァァァクッッッ!!お前っ!何を話してるんだ!C.C.っ!お前もだ!!」 近くのソファーでだらし無く寝転がり、ピザを食べていたC.C.はニヤニヤと笑みを浮かべながら手を振っていた。スザクは完全に目をそらしている。 ここに書かれた内容を知るのはこの二人だけだ。 皇帝と名乗る前、この二人とともに行動していた時の情報。 あるいはゼロであった時の情報。 それだけではない。 ゼロレクイエムに関する情報も詳細に書かれていた。 これらの内容からわかることは、ロイドたちも加担しているということだ。 「いいじゃないか、この時代では関係のない話だ。それに真実を伝えて置かなければ、悪逆皇帝唯一の騎士であるスザクと、ジェレミアの身も危険だろうに」 その言葉に、ルルーシュは反論できなかった。 未来を知っているということは、そういうことなのだ。悪逆皇帝を恨むものが、ルルーシュに忠誠を誓った者達に危害を加える可能性は低くはない。 「纏めてみれば、なかなか奇想天外な物語となったが、皆信じたようだ。なにせ監修は日本軍特殊部隊、黒の騎士団の隊長であるゼロ。エリア11テロリストにして超合集国の創始者、黒の騎士団CEO・ゼロを知るものは、それがこの時代に生きている英雄ゼロなのだとわかるだろう?そして聖女と呼ばれたナナリーと、私も関わっている。あの時代では口に出来なかった真実なのだと悟るには十分すぎる顔ぶれだからな」 それは父である皇帝が行った侵略戦争。その罪を背負い、全ての争いをなくすため、英雄ゼロに協力を申し出、悪逆皇帝となった少年王の物語。 シャルル皇帝としか思えない先帝、ルルーシュとしか思えない悪逆皇帝。スザクとしか思えない唯一の騎士。そして、日本軍の軍師ゼロとしか思えない英雄。それらもまた話題となった。何より、実際にあの日皇帝を止めるため、ルルーシュはたった1騎でペンドラゴンに攻め込んだのだ。 ルルーシュという人物の真実を知るには十分だろう。 「不老不死に関しても、どうにかなった。お前は安心してこの国を治めなさい」 「そんな言葉で納得できません!!」 にこやかに話すクロヴィスに、ルルーシュは噛みつかんばかりの勢いで怒鳴ったが、16歳で成長を止めた弟が、どれだけ吠えても怖くはないと言いたげに、目を細めて笑っている。5年で貫禄も身につけた異母兄を睨みつけながら、ルルーシュは5年?と、ふと思った。 そして視線を巡らせる。 C.C.が変わらないのはいい。 不老不死だ。 だが。 「スザク、お前、今21歳だよな?」 「え?僕?」 突然話を降られたことで、スザクはきょとんとした顔でこちらを見た。 いや、この男は童顔だから21に見えないのは仕方が無いかもしれないが・・・。 今年成人したユーフェミアは美しく成長している。 久しぶりに会ったから、それがよく分かる。 だが・・・毎日目にしているからか、この男は変わっていないように見える。 「そりゃあ、まあ、21歳、だろうね?」 しどろもどろに言う様子に、嫌な汗が流れた。 「お前を此処に連れてきた後、色々な情報媒体に流してみたんだよ」 コーネリアがいたずらっ子の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。 「・・・何をでしょうか」 「コードを捨てたいと思う者は此処に来いとな」 「・・・は?」 「わからないか、ルルーシュ?私のように死を望むコード保持者がいれば、是非来てくれと、コーネリアは世界に呼びかけたんだよ」 傍に来ていたC.C.はルルーシュが座る椅子の肘掛けに行儀悪く腰掛けた。 「・・・まさか、来たのか」 「私も驚いたよ。私とV.V.しかもういないのだと思っていたからな」 誰かに押し付けたいと考えるもの、諦めて生きている者、様々ではあったが、皆ひっそりと息を殺して隠れ暮らしていたため、同種の存在に出会うこと無く、自分だけが不老不死なのだと思っていた。いくつコードがあるかは知らないが、もし100あったとしても、この広い世界でその100が巡りあう確率は非常に低いだろう。 「・・・では、スザクは」 もう一度スザクへ視線を向けると、完全に視線をそらされた。 「何時気づくかと思っていたが、全然気づかなかったなお前。スザクが継承してすでに3年経っているぞ」 18歳で時間を止めている。 「スザアァァク!!」 お前、ギアスを手に入れたのか!! 散々ギアスは悪だ、罪だと言ってたのに!! 「いいじゃないか!!僕は君の騎士だよ!!」 君が不死なら僕も不死になって、永遠に一緒にいるに決まってるだろ!! 「お前はユフィの騎士だと言ってるだろうが!大体どうするんだ!お前、ユフィと来年結婚するんだろ!」 不老不死となったのだから、人の理から外れる。 それなのに人と結婚するつもりか! 「え?は?何の話!?結婚て、僕がユフィと!?」 知らないよそんな話!! 「何言ってるんだ!当事者が知らないはず・・・」 そこまで言ってルルーシュはハッとなった。 当事者であるルルーシュの知らない間に皇帝にされた。 この兄と姉の手で。 ならば、まさか。 「ああ、まだ知らなかったのかい?」 「ユフィが話していると思ったのだが」 「知っていると思い込んでいるのだろう、あのお飾りは」 クロヴィス、コーネリア、C.C.は呆れたようにスザクを見た。 おそらく気づいていたのだろうナナリーは、クスクスと笑っている。 俺の兄弟は重要な内容でも、本人には事後報告で進めていくのだろうか。 そういえばあの時代でのスザクの専任騎士の事も本人無視だったな。 頭が痛くなる。 ・・・頭が痛いのはそれだけではない。 「・・・ナナリー、聞いていいかな?」 スザクの事に気づけば、他のことにも気がつく。 「何ですか、お兄様」 「お前は今年、何歳になった?」 既にルルーシュの年を超えた妹に、そう尋ねた。 「お兄様は16歳なのですよね?なら私は18歳ですね」 スザクさんと同い年です。 本来なら19歳のはずだが、1歳少なくナナリーは答えた。 「ナナリー、まさか・・・」 「あら、私達だけではありませんよ?カレンさんもジェレミア卿も、咲世子さんも仲間入りしました。あとは・・・」 「・・・いい。もういい」 ルルーシュは頭を抱えた。 「思った以上にいたんだよ、コード能力者がな」 お前と共にありたいと願うものたち全員大喜びだ。 勿論死ねると元能力者も大喜び。 死ぬまでの間の生活保障もブリタニアが行うことになり、永遠を生きていた同胞はこれから余生をのんびり過ごすそうだ。羨ましいと思う気持ちも無いとは言わないが、彼らと過ごすこれからの未来を捨てるのは惜しいから、私は今もコードを持っている。 「これだけお前の周りに不死者が集まった以上、隠れ住むなど不可能と言っていい。ならば堂々と不老不死の皇帝としてお前が立ち、我々が永遠にサポートし、理想郷を作る話でまとまった。シャルルと対峙したあの日、お前はラグナレクや神と口にしていただろう?頭のいいお前が妄想を口にするとは国民も思っていなかったようでな、神を殺そうとしたシャルルを止めるため、お前は神に祈った。神はお前の願いを叶える替わりに烙印を押した。不老不死という呪いを宿した烙印を・・・という設定だ。その上あの映画。 お前の株はうなぎ登りで、不老不死が真実かどうかは別にして、お前が皇帝というのは国民は大喜びだったぞ」 だが。 「不老不死と言うのは恐ろしいからな。もし過った治世を行えば、バケモノと呼ばれ、退治されることになるだろう。せいぜい賢帝として世界平和に貢献してくれ」 穏やかな笑みで言うのはコーネリア。 「姉上は不老不死にはならなかったようですね」 「当たり前だ。不死になったら我が子との再会が叶わないだろう?生まれてくるのはまた別の子かもしれないが、私は我が子と再び出会うためにも、新たな子と巡りあうためにも人であらねばならない」 ギルフォードと結婚し、既に3児の母となっていた。 だが、未だあの時代に生まれた子どもとの再会が叶わずにいた。 今もお腹に子がいる。最初の子と同じ年に身に宿した命。 優しい母の顔でコーネリアは自分のお腹を擦った。 クロヴィスに視線を向けると、こちらも確実に歳を重ねていた。 「お前とともに永遠を生きるのは悪くないが、C.C.の話では感覚が少し変わり、感動も薄れるという。そうなると、芸術家としては致命的だろう?せっかく帝位を退いたのだ。これからは芸術に力を入れたいから、永遠の命は諦めたのだよ」 残念だが仕方がないねと、クロヴィスは静かに笑った。 「そうだ、ユフィとスザクの肖像画を結婚祝いに送らなければね」 さっそく取り掛からなければと張り切る兄から視線を外し、スザクを見た。 「だから、ユフィ!僕は不老不死だから君とは」 食事中だというのに席から立ち上がったスザクは、慌てたような声で言ったのだが、ユーフェミアはにこやかな笑顔を崩さなかった。 「大丈夫です、私も不老不死になります!」 「ええ!?」 「ですから何も問題はありません!」 「問題しか無いよ!」 ってか、専任騎士の時もそうだけど、僕に確認取ってよ!! そして、スザクは視線に気づいたのかこちらを振り返る。 「ルルーシュ!助けてよ、僕は君のものなんだから!」 「お前、何言って・・・」 スザクは俺の騎士ではないから、俺のものではない。 元々ユーフェミアの騎士だから、ユーフェミアのものだ。彼女が生きている以上、奪うことなど出来はしない。スザクが壊れないためにも騎士にするよう言われているが、現状でも特に問題はみられないし、不老不死である自分の騎士に、人であるスザクを選ぶわけにはいかない。何より、ユーフェミアとの結婚話は連れ戻された時から聞いていたため、その時に騎士の誓いもし、妻として、主として、夫として、騎士として、二人はこの時代で幸せな家庭を築くのだと思っていた。 「この馬鹿騎士。この男は私のモノだ」 ちなみに皇帝はルルーシュ、皇妃は私という設定だ! 「なにそれ、聞いてないよ!ってか君のものじゃない、ルルーシュは僕のだ!」 スザクとC.C.の口論の内容が理解できないと、ぽかんと口を開けて見ている可愛らしい兄の手を私は取る。 「行きましょうお兄様。衣装合わせをしなければ」 それに、お兄様は私のものですよね? 「え?ああ。では失礼します」 既に帝位を継いだ以上仕事はしなければ。 そして折を見て帝位を退けばいい。 数年位ならまあ、見た目が変わらなくても、童顔とか若作りとか、若返りの手術とか言えばなんとかなるだろうし、手を出したいと思った所を全ていじる機会を得たのだ。ルルーシュは、これからの予定を組み立てることで、現実逃避をすることにした。 「いい加減俺は帝位を退くぞ!!いつまでも皇帝などやってられるか!さっさとコードの研究をさせろ!不老不死など消し去ってくれる!」 黒髪の美しい少年王は、苛立ちを隠すこと無く怒鳴りつけた。 「落ち着いてくださいお兄様」 飴色髪の女性がたしなめると、皇帝は、だがしかし。と口にしながらもそれ以上いうことはできなくなった。 「まだしばらくいいじゃない。皆平和な世界に喜んでるんだから。あ、今日のお昼カツカレー食べたいな」 いつもの発作が始まったと思いながらも、赤毛の騎士は軽く流してそう強請った。 「カレン、最近カレーばかりじゃないか。いくら不死でも偏った食事は駄目だろう」 傍に居た彼女の兄は、妹をたしなめる。 「いいじゃないお兄ちゃんもカレー好きでしょ。よろしくねルルーシュ」 「そうですよ陛下、コードを消すことは可能でしょうが、国民が許してくれませんよぉ」 水色の髪の科学者は、おやつのプリンを美味しそうに口に運びながらそう言った。 「こんな美しい皇帝に支配されるなんて羨ましいと、属国にしてほしいという国がほら、こんなに」 青い髪の研究員の手には各国から送られたラブレター・・・もとい、嘆願書があった。 「ならば、その国の代表を呼んでもらおう。彼らへのもてなし料理はセシルに任せる」 「はい、お任せください」 腕によりをかけて用意しますね。 「・・・胃薬、用意しておくわね」 隣りに座っていた科学者がキセルを手にそう口にする。 彼女が張り切って作る手料理の威力は世界各国にも伝わっている。ある意味兵器と言える彼女を使い一掃するつもりかと、皆は思わず乾いた笑いを上げた。 「陛下、あの二人はよろしいのですか?」 青髪の騎士はコーヒーを口にしながらそう尋ねた。 桃色の髪の騎士もまた、気にしているのか言葉に反応を示した。 「いつまでたってもあの二人は犬猿の仲だからな。もう放っておけ」 一体何が理由であんなに毎日喧嘩しているんだか。 嘆息する皇帝の姿に、皆苦笑する。 喧嘩をしているのは自称皇妃と皇帝の筆頭騎士。 この皇帝の所有権をめぐり、人であった頃から争い続けている。 世界でも有名な話なのだが、相変わらず皇帝一人気づいてない。 皇帝はこのままでいいんです。 皆そう思っているから教えない。 不老不死の皇帝。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 神から烙印を受けた皇帝は、永遠と呼べるほどの年月、国の頂点に立ち続けた。 ブリタニアは緩やかな変化を続け、やがて各国から理想郷と呼ばれるようになる。 神の子と呼ばれるこの皇帝の従者もまた不老不死。 それ故に神の国とも呼ばれた。 賢帝でもある皇帝の支配する地は豊かで、平和。 その上、皇帝とその従者はとても美しかった。 神の属国となりたいという国は後を絶たず 皇帝が望みさえすれば何時でも世界は一つとなるだろう。 だが、皇帝はそれを望まず、各国が平和で、幸せになれるよう協力するのみ。 いい加減諦めて世界征服・・・いえ、統一すれば楽でしょうに。 後方に控えていた黒髪のメイドは、幸せなこの光景を嬉しそうに見つめていた。 |